カテゴリ:成年後見
監修:竹田司法書士・社労士事務所
将来、認知症などで判断能力が低下したときに備えて、あらかじめ自分で後見人を選んでおける「任意後見制度」をご存じでしょうか。家庭裁判所が後見人を選ぶ法定後見とは異なり、本人が元気なうちに自分の意思で後見人と支援の内容を決められる点が特徴です。本記事では、任意後見契約に関する法律(平成十一年法律第百五十号)の内容にもとづき、任意後見制度の基本的な仕組みと注意点を解説します。
任意後見制度とは
任意後見制度とは、本人の判断能力が十分にあるうちに、将来判断能力が不十分になった場合に備えて、自分で選んだ人(任意後見受任者)に生活・療養看護・財産管理に関する事務の全部または一部を委託する契約を、あらかじめ結んでおく制度です(任意後見契約に関する法律第2条第1号)。家庭裁判所が後見人を選ぶ法定後見と異なり、誰にどの事務を任せるかを本人自身の意思で具体的に決められる点が大きな特徴です。
契約は公正証書によらなければならない
任意後見契約は、法務省令で定める様式の公正証書によってしなければ効力を持ちません(同法第3条)。公証役場で公正証書が作成されると、その内容は法務局で登記されます。私文書や普通の契約書だけで任意後見契約を結ぶことはできません。
効力が生じるのは任意後見監督人が選任された時から
ここが特に誤解されやすい点です。任意後見契約を結んで登記しただけでは、契約はまだ効力を生じていません。実際に本人の判断能力が不十分な状況になった後、家庭裁判所が「任意後見監督人」を選任した時から、初めて契約の効力が生じます(同法第4条第1項)。この選任は、本人・配偶者・四親等内の親族・任意後見受任者が家庭裁判所に請求することができます。任意後見監督人は、任意後見人の事務を監督し、家庭裁判所へ定期的に報告する役割を担います。申立てには収入印紙代・登記手数料などの実費がかかるほか、本人の判断能力について鑑定が必要な場合は、その費用が別途生じることがあります。
効力が生じる前でも財産管理を任せる方法(移行型)
「契約を結んでから実際に効力が生じるまでの間、何もできないのでは不安」という方のために、任意後見契約とあわせて、日々の支払いや通帳の管理などを任せる財産管理等委任契約を同時に結んでおく方法があります。この財産管理等委任契約は、任意後見契約と異なり公正証書での作成が法律上必須というわけではありませんが、実務上は任意後見契約と同時に、同じ公証役場の手続きの中で作成されることが一般的です。判断能力が十分にあるうちから財産管理を任せつつ、判断能力の低下に応じて任意後見に移行させるこの組み合わせは「移行型」と呼ばれ、任意後見契約のうち最も多く利用されている類型といわれています。
法定後見との関係と任意後見の限界
任意後見契約が登記されている場合、家庭裁判所は、本人の利益のため特に必要があると認めるときに限り、法定後見開始の審判をすることができます(同法第10条第1項)。つまり、本人が自分の意思で結んだ任意後見が原則として優先される仕組みです。ただし、任意後見人には、法定後見の成年後見人などと異なり、本人が行った不利な契約を取り消す権限(取消権)がありません。悪質な訪問販売や過量契約などから本人を保護する機能は、法定後見に比べて弱いという限界がある点には注意が必要です。
今後予定されている見直し(令和8年法律第45号)
令和8年6月24日に公布された「民法等の一部を改正する法律」(令和8年法律第45号)により、任意後見契約に関する法律も改正の対象となっています。法務省民事局の資料によれば、主な見直しの方向性として、家庭裁判所が明らかに任意後見監督人による監督の必要がないと認めるときは、監督人を選任せず家庭裁判所が直接監督することを可能にすること、法定後見(改正後は「補助」に一元化)の利用を開始しても任意後見契約の存続を許容すること、任意後見契約を発効させる裁判手続の申立権者を、本人が公正証書で指定した者にも広げることなどが挙げられています。施行時期は公布から2年6か月を超えない範囲内で政令により定められる予定で、現時点ではまだ施行されておらず、現行の制度がそのまま適用されます。施行後も、施行日前に締結された任意後見契約は改正後の任意後見契約法が適用される一方、旧法のもとで既に生じた効力は維持される経過措置が予定されています。具体的な施行日や経過措置の詳細は、今後の政令の内容を確認する必要があります。
まとめ
任意後見制度は、判断能力が元気なうちに、自分の意思で将来の備えができる制度です。契約の方式(公正証書)、効力が生じるタイミング(任意後見監督人の選任)、法定後見との優先関係、取消権がないという限界を正しく理解したうえで、誰にどの事務を任せるかを検討することが大切です。法定後見制度全体の見直しについては、当事務所の別記事「成年後見制度が26年ぶりに抜本改正」もあわせてご覧ください。
よくある質問
Q. 任意後見契約を結べば、すぐに後見人に支援してもらえますか?
A. いいえ。契約を結んで登記しただけでは効力は生じません。本人の判断能力が実際に不十分になり、家庭裁判所が任意後見監督人を選任した時から、初めて契約の効力が生じます。
Q. 任意後見人には、誰でもなれますか?
A. 家族や友人など、本人が信頼する人であれば、資格を問わず任意後見受任者になれます。ただし、本人に対して訴訟をした者や、不正な行為など任務に適しない事由がある者は、任意後見監督人選任の際に除外されることがあります。
Q. 任意後見と法定後見のどちらを選べばよいですか?
A. 判断能力が現在も十分にあり、将来に備えてご自身で後見人を決めておきたい方は任意後見が向いています。すでに判断能力が低下している方は、任意後見契約を新たに結ぶことができないため、法定後見の申立てを検討することになります。
竹田司法書士・社労士事務所では、任意後見契約書の作成支援、任意後見監督人選任の申立書類作成、法定後見の申立てサポートを承っております。堺市はもちろん、大阪府内で任意後見・成年後見をお考えの方は、お気軽にご相談ください。
※本記事は令和8年9月1日時点の法令・情報に基づいて作成しています。令和8年法律第45号による任意後見契約に関する法律の改正は、本記事作成時点でまだ施行されておらず、今後の政令の制定により内容が変更される可能性があります。最新の内容については、当事務所までお問い合わせください。
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