高齢者の消費者被害を防ぐ「取消権」とは?成年後見制度でできること

 カテゴリ:成年後見
監修:竹田司法書士・社労士事務所

認知症のご家族が、必要のない工事や高額な健康食品の契約をしてしまった——こうした消費者被害のご相談は少なくありません。実は、成年後見制度を利用していると、こうした契約を法律の力で取り消せる「取消権」という仕組みがあります。本記事では、成年後見・保佐・補助のそれぞれで取消権の範囲がどう異なるか、そして取消権にも期限がある点を解説します。

高齢者を狙う消費者被害は増えている

独立行政法人国民生活センターの発表(令和8年8月5日付)によれば、2025年度(令和7年度)に全国の消費生活センター等に寄せられた消費生活相談は100万6377件で、前年度から約9万件増加しました。契約当事者の年代別では70歳以上の割合が25.6%と最も高く、依然として高齢者が消費生活相談の中心的な層となっています。自宅を訪問して点検商法で不要な工事を勧める手口や、国の機関・大手企業をかたって不審な電話をかける「かたり商法」など、判断能力が低下した高齢者を狙う勧誘の手口は多様化しています。

後見制度を使っていない場合は「個別の証明」が必要

後見制度を利用していない場合、家族が契約の無効を主張するには、契約をした時点で本人に意思能力がなかったことを個別に立証しなければなりません(民法第3条の2)。診断書や当時の状況を集めて説明する必要があり、実務上はハードルが高いのが実情です。悪質な事業者側も、この立証の難しさにつけ込んでくることがあります。

成年後見人がついていれば原則すべて取り消せる

家庭裁判所が選任する成年後見人がついている場合、成年被後見人(本人)が結んだ契約は、日用品の購入その他日常生活に関する行為を除き、原則としてすべて取り消すことができます(民法第9条)。個々の契約について改めて判断能力の欠如を立証する必要がなく、本人の「地位」に基づいて広く保護される点が、成年後見の大きな特徴です。ただし、後見を開始するには家庭裁判所への申立てと審判の手続きが必要で、申立てから実際に後見人が選任されるまでには一定の期間がかかります。すでに被害に遭った後から後見開始の申立てをしても、過去の契約に遡って取消権が使えること自体は妨げられませんが、手続きには時間がかかる点をあらかじめご理解ください。

保佐・補助では取り消せる範囲が異なる

判断能力の低下がそこまで重くない場合には、保佐や補助が利用されます。保佐がついている場合、被保佐人が借財・保証、不動産その他重要な財産の得喪、贈与、相続の承認・放棄など、民法第13条第1項に列挙された重要な行為をするには保佐人の同意が必要で、同意を得ずに行った場合は取り消すことができます(同条第4項)。日用品の購入のような軽微な行為は対象外です。補助の場合は、家庭裁判所の審判で個別に定めた特定の行為(第13条第1項所定の行為の一部に限る)についてのみ、補助人の同意が必要とされ、取消しの対象となります(民法第17条)。成年後見・保佐・補助のどれを利用するかによって、保護される範囲が大きく異なる点に注意が必要です。

取消権には期限がある

取消権は、追認をすることができる時(本人や後見人等が取り消せる契約であることを知った時など)から5年、契約の時から20年のいずれか早い方が経過すると、時効によって消滅します(民法第126条)。「そのうち対応しよう」と先延ばしにしていると、取消権そのものを失ってしまうおそれがあるため、被害に気づいたら早めの対応が重要です。

なお、あらかじめ自分で後見人を選んでおく「任意後見制度」には、この取消権がありません。任意後見制度の詳しい内容は、当事務所の別記事「任意後見制度とは?判断能力があるうちに後見人を自分で選べる制度」もあわせてご覧ください。

よくある質問

Q. 契約を取り消すには、詐欺だったことを証明する必要がありますか?
A. いいえ。成年後見人による取消権は、詐欺の立証を必要としません。日用品の購入等を除き、本人が結んだ契約であることを示せば、原則として取り消すことができます。

Q. すでに商品を使ってしまった場合や、代金を払ってしまった場合でも取り消せますか?
A. 取消しの可否自体は、商品の使用や支払いの有無によって直ちに左右されるものではありませんが、返還すべき利益の範囲など個別の事情によって扱いが異なる場合があります。詳しくは司法書士にご相談ください。

Q. 後見開始の申立ては、誰でもできますか?
A. 本人、配偶者、四親等内の親族などが家庭裁判所に申立てをすることができます。申立てには、本人の判断能力に関する医師の診断書などの書類が必要です。

竹田司法書士・社労士事務所では、高齢のご家族の消費者被害に関するご相談、成年後見・保佐・補助の開始の申立て手続きのサポートを行っております。「家族が契約してしまったものを取り消せるか知りたい」「後見制度の利用を検討したい」という方は、堺市はもちろん、大阪府内でお困りの方はお気軽にご相談ください。

参考:国民生活センター:2025年度 全国の消費生活相談の状況 e-Gov法令検索:民法

※本記事は令和8年9月2日時点の法令・制度に基づいて作成しています。その後の法改正等により内容が変更されている場合がありますので、あらかじめご了承ください。最新の内容については、当事務所までお問い合わせください。

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